2009年07月12日

『厭な小説』

京極夏彦さんの『厭な小説』を読む。イライラ必至の爆笑「どん引き」小説集。

不条理な超常現象らしきものに悩まされて精神を崩壊していく人々が描かれています。書かれるのはなんとも厭な現象ばかりなんですが、じゃあ精神を崩壊していく人々に同情を寄せられるかというと、全然そんなことない。これらの人々も優柔不断だったり無意味なところで感情的だったりとイライラさせる感じなのです。徹頭徹尾厭な感じなんですね、小説全体が。この「厭」さ加減は強烈です。

凝った装丁も含め、稚気に満ちた素敵な本です。書かれてる内容は全然素敵じゃないんだけど。ということでオススメです。みんなこの本を読んで心の底から厭な気分になればいいと思うのです、はい。
posted by △ at 09:50| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『世界の果て』

中村文則さんの『世界の果て』を読む。

初中村作品です。短編集です。どういう作家かを素朴に言うと、「ブンガク」に対してあんまり本を読まない人が抱くイメージ「事件がない」「オチがない」「現実味がない」「読みやすくない」「意味が分からない」を全部備えた作品を書く作家です。褒めてないように思うでしょ?ところがどっこい、上記の性質が全て美点となっちゃうから中村さんはすごいのである(一作しか読んでないのに断定してみました、あとやっぱり「意味はある」と思うけど)。読むとゾワゾワするんですよ、中村さんの作品は。

例えば小説の中には、「ページをめくる手を止めさせない」とか「リーダビリティが高い」といった美点を持つものもあるでしょ?ある意味で読む「私」を消去する力を持った小説です。でも小説には、読む「私」だけをきっちりと残すタイプ小説もあると思うんです。「私」が取り残されてしまうような読書体験を要求するような小説。中村さんの作品は割とそういう面が強いと思う。だから読んでいる間は結構不安になる。そして、そういう小説の力、僕は嫌いじゃないんです。

収録作で一番好きなのは「ゴミ屋敷」。62-3ページのくだりはある意味爆笑シーンとも言えると思う。この箇所を読んだだけでもこの本を読んだ甲斐はあった。ということでオススメです。
posted by △ at 09:49| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月09日

『まっすぐ進め』

石持浅海さんの『まっすぐ進め』を読む。

ミステリ風味の味付けで、恋愛の要素も含まれる連作短編小説集。5つの小説からなっています。

石持さんのはあくまで「ミステリ風」。どうして数ある可能性の中からそれを(正答として、あるいは当然思いつく選択肢として)選ぶのかがよくわからないが、とりあえず石持さんの持って行きたい方向はそちらなんだろう、と理解しながら読むべき小説です。

今回の短編集では、「ワイン合戦」と「晴れた日の傘」は日常の謎としてよくできていると思いました。でも、「いるべき場所」は僕にはなんだかすごく変な小説に思える。これじゃどうやったって誘拐だって。ほとんどペテンのような筋の通し方をするからこそ、登場人物の思考回路は素直に常識的なものにするべきだと思うんだけどな、本格ミステリなら。ま、本格ミステリじゃないのかもしれませんけど。
posted by △ at 16:58| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月05日

『ファイアボール・ブルース』

桐野夏生さんの『ファイアボール・ブルース』を読む。女子プロレスを題材にした作品です。

外国人選手の失踪事件をメインの謎において、最高にかっこいい女子プロ選手火渡とその付き人、近田が活躍する物語。前二作のように男と女の性的関係は書かれず、女性同士、あるいは男女の文字通りの肉体のぶつかり合いがたくさん描かれます。

リーダビリティが高く、ラストも感動的で、女子プロレスに縁のない人でもサクサク読めます。逆に僕は女子プロレスに詳しい人がこの作品をどう読むかが気になる。

この作品は続編もありますので、そちらも近いうちに読みます。オススメ。
posted by △ at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『探偵小説のためのノスタルジア 「木剋土」』

古野まほろさんの『探偵小説のためのノスタルジア 「木剋土」』を読む。

孤島で起きた連続殺人事件をひたすら論理の力だけで解き明かす萌え系本格ミステリ。2009年でもっとも本格ミステリを本格ミステリとして書ける逸材、古野さんの新作です。なんせ小説全体の半分にも達しないうちから謎解きパートが始まるんですから。形としては『双頭の悪魔』に近い。

操作に必要なデータを巻末の捜査資料として載せてしまうなど、省エネ化(笑)が進んでいるのも特徴。僕はどちらかというと文章の形で伏線は提示して欲しい派なのですが、古野さんの萌え文体ならこれもありかも。この文体の中に伏線がまぎれていたら(そして他の古野作品では本当にまぎれているのである)拾いきれませんから。

ということで、ただひたすら論理だけが美しいこの異形の作品を堪能ください。オススメ。
posted by △ at 22:36| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『念写探偵 加賀美鏡介』

楠木誠一郎さんの『念写探偵 加賀美鏡介』を読む。

探偵役の加賀美鏡介は念写のできるカメラ屋さん。雰囲気は京極堂っぽくて、特殊能力があるのは榎木津っぽい。そしてストーリーは千利休切腹の謎(ちょっとタイミング悪いかも、『利休にたずねよ』の後だと)と現実に起こる殺人事件の謎がリンクするもの。QEDシリーズっぽいですよね。でも、もともと青い鳥文庫で活躍している作家さんなので、わかりやすいです。登場人物たちもどことなくジュニア小説のそれっぽい。

そんな小説です。明らかにシリーズ化前提の話だと思うので、続編を待ちましょう。
posted by △ at 22:35| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月04日

『しあわせの書』

泡坂妻夫さんの『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』を読む。友人に大変強く薦められたので、やっとですが読んでみました。

あやしげな宗教団体に巻き込まれ、断食会にしくまれた企みをヨギガンジーが暴くというストーリー。わりとライトなミステリかな、と思いつつ読んでいき、ラスト付近で仰天。この本にはある仕掛けが隠してあるのですが、その仕掛けに気づいて思わず全体を読み直してしまいました。

この仕掛けは、ミステリに詳しくない人でも絶対にわかるものです。ああもう、よくやったよ泡坂さん。尊敬します。未読の方はぜひとも読んで驚いてほしい。オススメ。
posted by △ at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『天使に見捨てられた夜』

桐野夏生さんの『天使に見捨てられた夜』を読む。ミロシリーズの第二作です。

失踪したAV女優を探すよう依頼されたミロがまたしても敵の男に翻弄されながら真相に迫っていくハードボイルド小説。どうして敵の男とやっちゃうかなあ、という女性主人公の物語にありがちなあの定番ネタを踏襲しつつ、その人間関係の危うさをきちんと書こうとする大変スリリングな小説として読みました。「女の軽率さ」って書き様によっては(というかたいていは)書き手の凡庸な女性観の反映でしかないんですが、桐野さんは崖っぷちすれすれのところであえてこれを書いているように見えるんですよね。その辺りの球筋を堪能させていただきました。まさか自分がハードボイルドとか読むようになるとは思わなかったなあ、感嘆。ということで、オススメです。
posted by △ at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『萩原重化学工業連続殺人事件』

浦賀和宏さんの『萩原重化学工業連続殺人事件』を読む。

純菜シリーズでは本格ミステリへの、あるいはこの世界そのものへの憎悪に満ちた萌男的(笑)煩悩を炸裂させていた浦賀さんですが、今回は密室殺人かつ「脳」の話ということで、新境地か?と思いつつ読みました。

しかしまあ、浦賀さんに浦賀さん以外の要素を求めるのは筋違いだよね、と読後思いました(笑)。もうね、これは浦賀さんの性(さが)なので、仕方ないんです。そんな小説。わあ、愛がないコメントに見えますね、これ。
posted by △ at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月02日

『柔らかい土をふんで、』

金井美恵子さんの『柔らかい土をふんで、』を読む。文庫化を機に読んでみました。実は金井さんの小説、読むのは初めてです。

非常に大きく要約すれば、「逃げさる女と裏切られた男の、狂おしい愛の物語」(裏表紙より)です。でもまあ、ちょっとこれはおいておいて自分流に語らせてください。

金井さんの文章の特徴は、途中で主述が入れ替わったりずれたりすることもいとわない、非常に長いセンテンスにあります。今でこそ長いセンテンスを書く作家は珍しくないんだけれど、凡百の作家だと、長い一文の中身がが薄くなるというか、一文が平均の2倍の分量になっても書かれていることの量は変わらないから結局2倍の速さで読み飛ばせるので一文辺りの読了時間はかわらない、という程度の長いセンテンスにしかならないんです。でも、金井さんの文章は違う。センテンスの隅々まで実に流麗な描写が行き渡ることによって、長いセンテンスが枝の折れないぎりぎりのところまで重みでたわむというか、ずっしりと濃いんですよね。

とすると重厚で読みにくいのではないか、というと、そうでもないんです。もちろんそれは描写が非常にすばらしくて読ませるから、というのもあるんですが、ここで僕は金井さんの読点に着目したい。この小説のタイトルにも用いられている読点、読者にとっての息継ぎポイントとして機能しているように僕には思えるのです。泳げるところまで泳いだら読者の好きな読点で息継ぎをすればよいようになっているから、苦しくならずにどんどん読める。だから、なんだか「どうしてこんなに難しい小説を嘘のようにさくさく読めるのだろうか」と騙されながら最後までたどりついてしまうのです。

ということで、ぜひともいろんな人に読んで欲しい作品です。オススメ。また、文庫化に際しての解題著者インタビューも必読。こっちはワンセンテンスが長いということはなくて、普通のインタビューとして文字起こしされていますが、金井さんの発言には感動を覚えます(インタビューを読みながら震えてしまった)。なんて賢い人なんだ金井さん。
posted by △ at 22:16| Comment(3) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする