金井美恵子さんの
『柔らかい土をふんで、』を読む。文庫化を機に読んでみました。実は金井さんの小説、読むのは初めてです。
非常に大きく要約すれば、「逃げさる女と裏切られた男の、狂おしい愛の物語」(裏表紙より)です。でもまあ、ちょっとこれはおいておいて自分流に語らせてください。
金井さんの文章の特徴は、途中で主述が入れ替わったりずれたりすることもいとわない、非常に長いセンテンスにあります。今でこそ長いセンテンスを書く作家は珍しくないんだけれど、凡百の作家だと、長い一文の中身がが薄くなるというか、一文が平均の2倍の分量になっても書かれていることの量は変わらないから結局2倍の速さで読み飛ばせるので一文辺りの読了時間はかわらない、という程度の長いセンテンスにしかならないんです。でも、金井さんの文章は違う。センテンスの隅々まで実に流麗な描写が行き渡ることによって、長いセンテンスが枝の折れないぎりぎりのところまで重みでたわむというか、ずっしりと濃いんですよね。
とすると重厚で読みにくいのではないか、というと、そうでもないんです。もちろんそれは描写が非常にすばらしくて読ませるから、というのもあるんですが、ここで僕は金井さんの読点に着目したい。この小説のタイトルにも用いられている読点、読者にとっての息継ぎポイントとして機能しているように僕には思えるのです。泳げるところまで泳いだら読者の好きな読点で息継ぎをすればよいようになっているから、苦しくならずにどんどん読める。だから、なんだか「どうしてこんなに難しい小説を嘘のようにさくさく読めるのだろうか」と騙されながら最後までたどりついてしまうのです。
ということで、ぜひともいろんな人に読んで欲しい作品です。オススメ。また、文庫化に際しての解題著者インタビューも必読。こっちはワンセンテンスが長いということはなくて、普通のインタビューとして文字起こしされていますが、金井さんの発言には感動を覚えます(インタビューを読みながら震えてしまった)。なんて賢い人なんだ金井さん。