2009年10月12日

『ともしびマーケット』

朝倉かすみさんの『ともしびマーケット』を読む。

北海道のある街にあるスーパーマーケット、ともしびマーケット鳥居前店にやってくる人々を主人公にした連作短編集。もう大絶賛なんですが、そのポイントをいくつか挙げてみようと思います。

1)タイトルがうまい。
全体に「心温まるいい話」なんだけれど、そのような言葉を地の文で朝倉さんは使わず、ただひたすら描写で示すだけ。自分の書きたいテーマをそのまま言葉として出してしまうつまらない作家がいる中で、朝倉さんのこのテクニシャンぶりは際立っています。そして、そう考えてみると、「ともしび」という語彙の選択は100点満点なんですよ。「希望」とか「幸福」のそのものではないんだけれど、それを表す語彙としてこれ以上にぴったりくるものはない。

2)主人公たちが多様。
これまでの作品だと、長編ではもちろん主人公が固定しているし、短編集でも例えば「OL」みたいに、わりと属性の似た人が各編の主人公だったんですが、今回は子供から老人まで、性別もバラバラ、仕事もバラバラの人たちが各編の主人公。文体もそれにしたがって少しずつ変化がつけてあって、次の短編ではどうなるんだろう、とわくわくしながら読み進められます。

3)各短編のつなげ方が上品。
同じ場所が舞台ですから、登場人物たちは少しずつ接点を持っています。そのつながりの書き方があざとくなくて上品。かといって、一生懸命気にして読まないとわからないような隠し方もしていない。読み進めるごとに自分もともしびマーケット鳥居前店のある街に住んでいるような気になってきます。

4)にもかかわらず、驚きの大団円。
連作短編集の肝はもちろん最後の短編です。ここで全体の話をどうまとめてゴールテープを切るかが大事なんですが、朝倉さんはあっと驚く大団円を用意します。まさかこんなに王道のやり方で勝負してくるとは…。ネタばらしというほどではないんですが、どうしても自分で読んでこの幸福を味わって欲しいので、ここでは黙っておきます。にもかかわらずハッピーエンドの最後の最後は書かない禁欲さも朝倉さんは持ち合わせているので、ここでもあざとくないんだなあ。

どんな話かに一切触れずに褒めてみました。各編で言うとね、僕は「ピッタ・パット」が好き。ここでも最後の最後のあれは言わないんだよ。ここを書いちゃうアホ作家と朝倉さんは違うんだよ。ああもう、すごいです。大絶賛。
posted by △ at 11:56| Comment(0) | TrackBack(1) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「ともしびマーケット」朝倉かすみ
Excerpt: 誰かの「いい日」に、ともしびを。たくさんの買い物客がうごめいています。みんなあんなに生きている。スーパーマーケットの白くあかるい照明にひとしく照らされている。たくさんの人生の「一日」を、著者なら.....
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