2010年11月14日

『ノン+フィクション』

古川日出男さんの『ノン+フィクション』を読む。

古川さん自身の言葉によれば「旅行記であり短編集」。普通に考えればエッセイ集なのですが、そもそも古川さんの書くエッセイはエッセイではないので、限りなくフィクショナルな、あるいはこういってよければ小説的な本に仕上がっています。戯曲も含まれていますしね。

素晴らしいなと思ったのは、ハワイのギター奏者マカナについて書かれた文章と、舞踏家の黒田育世さんについて書かれた文章。音楽や舞踏についての古川さんの文章は、はちきれんばかりに奔放で自由で先鋭的なんですよね。これぞ古川さんの真骨頂。読んでいるだけでワクワクします。

ああ、いい本を読みました。次の古川さんの小説が楽しみ。
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『スタイルズ荘の怪事件』

アガサ・クリスティー著、田村隆一訳の『スタイルズ荘の怪事件』を読む。

クリスティのデビュー作であり、記念すべきポワロの初登場作。ばらまかれた手がかりを拾い集めて一筋の美しい真相を導き出す、ポワロの灰色の脳細胞が大活躍します。奇怪で意味不明な毒殺事件がはらはらとその仮初の衣を脱ぎ落とし、実にシンプルな深層が見えてくる構成に感銘を受けました。デビュー作ということで、ポワロの亡命のエピソードやヘイスティングスの傷痍軍人としてのエピソードがふんだんに語られるのも興味深い。クリスティの魅力にどっぷりはまりました。オススメ。

これからクリスティ全作品読破プロジェクトをスタートします。ゆっくり着実に、楽しませていただきますよ。
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2010年10月31日

『13日間で「名文」を書けるようになる方法』

高橋源一郎さんの『13日間で「名文」を書けるようになる方法』を読む。

高橋さんの明治学院大学での授業をもとにした、文章読本。授業の形式になっているので、高橋先生のゼミに参加しているつもりで気軽に読めます。

ただし、この本に書かれているのは名文をうまく書くコツではありません。むしろ、「名文」と呼ばれるものの内実を取り替えてしまうことによって、学生を「名文」家に変えてしまう、トリッキーな企みが描かれています。ただ、このトリッキーさが「文学」の王道でもあるんですよね、実は。文章読本らしからぬ文章読本、堪能しました。
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『道徳という名の少年』

桜庭一樹さんの『道徳という名の少年』を読む。


非常に幻想的な小説です。本の装丁が装飾的で、文章自体の分量が少なめ。お伽話のようにパッケージされた小説ですが、中身はお伽話というにはややビター。美しい女を登場させる冒頭は本当に桜庭さんらしいし、その後の展開も、美しくも苦々しい雰囲気を保ちつつ進むところが桜庭さんらしい。

次はもっと長いおはなし、あるいは短編集なんかも読んでみたいですね。
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『オープン・セサミ』

久保寺健彦さんの『オープン・セサミ』を読む。

人生にはままならないことがたくさんあるけれども、時に目の前がすっと開けて、困難のその先へ進めることがある。久保寺さんは「オープン・セサミ」という魔法の呪文を小説の主人公たちにかけることで、彼ら彼女らをままならなさの一歩先の新しい経験へと心を込めて送り出します。

さまざまな年齢と性別の主人公が一歩先へと踏み出す短編集なのですが、僕が好きなのは「彼氏彼氏の事情」。腐女子受けしそうなテーマを、実に切なくてしかもさらっと書き切る久保寺さんの筆力に感嘆しました。

元気になりたい人、ぜひ読んでください。オススメ。
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『見えない復讐』

石持浅海さんの『見えない復讐』を読む。

大学に復讐を誓う大学院生たちと、それを利用しようとするベンチャー企業向け投資会社の社員。二つの復讐が重なり合うサスペンスです。

いつもの石持作品と同じく、どうして論理的に考えてその可能性が正解だと思えるのか?はわかりません。論理的にでもテイスト的にでもいいから、いくつかのもっとありそうな選択肢をきちんと消去して欲しい。あと、結末があまりに短絡的すぎやしないか、とも思いました。登場人物が合理的で冷静だから論理合戦は面白いのに、ねえ。なんだか石持作品と僕は相性がよくないみたい。

しかしそれ以上に気になるのは舞台設定。僕、こんな大学院は嫌です(苦笑)。
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『完全・犯罪』

小林泰三さんの『完全・犯罪』を読む。

奇想に満ちた短編集。僕が好きなのは表題作ですね。非常にめんどうな設定と見せかけた時間SFなのですが、ラストの一行の脱力感が非常に心地よい。頭のよい人が書いたからこういうオチで遊べるんだろうなあ。とても好きな作品です。

その他の作品も奇妙な読み心地にあふれた作品ばかり。教養ある芸の妙を楽しんでください。
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2010年10月28日

『フロム・ヘル(上)(下)』

アラン・ムーア/エディ・キャンベル『フロム・ヘル(上)(下)』を読む。

切り裂きジャック事件を題材にした、コミックノベルの最高傑作。この未解決事件に関する説得的な一つの仮説をもとに、アランが話をふくらませ、そしてエディがおぞましい絵でそれを表現する形でこの作品が出来上がったようです。

この仮説が非常に良くできていてそれだけでも面白いのですが、セリフと絵がこれまたすごい。絵と台詞で表現する、ということの意味をこれほど知りつくした二人はいないのではないでしょうか。特に圧巻は下巻の殺人と死体凌辱のシーン。白黒のページからこれほどの狂気を感じたことはありません。

怖いのが苦手な人、そもそもマンガが苦手な人などいろいろいると思いますが、この本は絶対に読んだ方がよいです。強く強く強くオススメ。それにしてもみすず書房と柳下毅一郎さん、いい仕事しすぎです。
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『寝ても覚めても』

柴崎友香さんの『寝ても覚めても』を読む。

消えた恋人とそっくりの人物があなたの目の前に現れたら、あなたはその人に恋をするでしょうか?この、綺麗事を答えようと思えばいくらでも応えられるようなテーマに、小説の形で決定的な答えを柴崎さんが与えてくれました。ただし、この回答、模範解答からは程遠いです。

しかし柴崎さんの文体はすごい。眼前に起こる事を淡々と描写するだけで、すごく小説になっている。小説を読むこととはストーリーを読むことだと思っている読者の人は、柴崎さんの小説は全く受け付けないかもしれません。でも、小説を読むことが描写を読むことだとわかっている人は、柴崎さんがいかに優れた書き手であるかがわかるはずです。今、自分の作り上げた小説に対してこれほど巧みシャッターを切れる小説家は他にいません。柴崎さん、恐るべし。

非常に強い印象を残すラストにも注目です。この小説を受け渡されてしまって、読者は平常心でいられるのか。ぜひ、打ちのめされてください。強く強くオススメです。
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『よそ見津々』

柴崎友香さんの『よそ見津々』を読む。

柴崎さんのエッセイ集。柴崎さんって、ある意味「冷たく」すらあるその作風とは違って、エッセイでは「若い女性らしい感性」を見せていて、それがとても意外。それが計算なのではと勘繰ってしまう僕は、柴崎さんの小説の毒にあてられすぎなのかな?ファッションや食に関する話も、楽しく読めたんだけど、裏読みせねばいけない気がしてしまった(苦笑)。
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『光待つ場所へ』

辻村深月さんの『光待つ場所へ』を読む。

自負があるということは、輝かしいことであると同時に非常に脆いことでもあって、辻村さんはこの脆さを描くのが非常にうまい。3つの小説からなるこの作品集では、この脆さが徹底的に描かれています。先に一言。辻村さんの他の作品とリンクしている作品も収録されていますが、全く気にせずに読めます。辻村さんの作品の中にはリンクがわからないと困る作品もありますが、今回は違います。

さて、僕が非常に気に入ったのは冒頭の「しあわせのこみち」。圧倒的な敗北感を味わった女性が、描くべき絵を見つける過程が、苦々しくも柔らかく、そして清々しい筆致で描かれています。登場人物の自意識を少しでも理解してしまったら、もう無傷では辻村さんの小説を読む事はできません。でも、そういう刺し違える覚悟でする読書って、豊かだと思いません?本気で取り組むに値する小説だと思います。オススメ、オススメ。
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2010年10月21日

『ペンギン・ハイウェイ』

森見登美彦さんの『ペンギン・ハイウェイ』を読む。

森見さんと言えば、大学生男子を主人公にした、身もだえするような青春小説の書き手、というイメージがあると思うのですが、この小説の主人公は小学4年生。「おっぱい」ぐらいは出てきますが、とても清廉潔白な感じの小説です(苦笑)。

主人公の存在する町では、ペンギンが出現したり消えたりとう怪異現象が起こっています。主人公の少年は、さまざまな事象を自分なりに研究している非常にませた子。彼が研究をすすめ、「海」の謎に迫ります。

不可思議な現象が設定に取り込まれていますが、ミステリでもSFでもありません。ラスト付近、主人公よりも先に「謎」の正体に気付いた読者は、泣かずにはいられないと思います。ああもう、今思い出しながらうるうるしてしまった。これは森見登美彦の最高傑作ではないだろうか。強く、強く、強く、オススメいたします。
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『声出していこう』

朝倉かすみさんの『声出していこう』を読む。

通り魔事件の起こる町に生きるさまざまな人々の、けなげで切なくなるような生きざまを描いた連作短編集(むしろ長編小説かも)。読者をつかんで離さない、巧みな比喩をつかった心理描写に、小説の、そして朝倉さんの底力を感じさせてもらいました。また、各短篇感の関連のさせ方も、嫌みでない技巧が冴えわたっていて感嘆させられます。上手い作家って本当にうまいんですよ、みなさん。

そして一つどうしても言っておきたいのが、どの短篇でも中心人物にはならないが登場する理容室の共同経営者の二人。こういう人物造型、好き。後半なんかこの二人が出てくるだけで泣いちゃう(笑)。朝倉さん、ずるい、ずるすぎる。

強く、強く、強くオススメ。
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『新世界崩壊』

倉阪鬼一郎さんの『新世界崩壊』を読む。

年に一度のお楽しみ、倉阪さんが講談社ノベルスで書くバカミステリ。倉阪さんの場合、びっくりするような手間をかけて壮大にくだらない話をしてくれるので、読むと爆笑しながらちょっとだけ感動してしまうんですよね。今回も、これまでのバカミスシリーズをしのぐお下劣さながら、手が込み過ぎていて感嘆してしまいました。設定を書こうとするとすでにネタばらしになってしまうので、中身についてはぜひ実際に読んで確かめてください。オススメ。
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『4444』

古川日出男『4444』を読む。

ショートショートくらいの長さの小説がつまった作品集。もともとWEB連載だったゆえの特徴、ということになるのでしょうか。言語が今この場で火花を散らしているかのような文章の流れに、深く酩酊しながらのめりこみました。うーん、このスピード感のある文体、好きだなあ。
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『QED 鏡家の薬屋探偵』

『QED 鏡家の薬屋探偵』を読む。

メフィスト賞トリビュートの作品集です。とにかく、西澤保彦さんが、高田崇史さんのQEDシリーズをモチーフに書いた作品が素晴らしい。だって、外嶋一郎をフィーチャーですよ!これが面白くないわけがない。にやにやしながら読んでしまいました。

初期のメフィスト賞受賞者はやはりとても個性的だった(し、今もそうな)んですね。感慨深い。
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2010年10月14日

『西巷説百物語』

京極夏彦さんの『西巷説百物語』を読む。

巷説百物語シリーズ、舞台が西にうつります。帳屋の林蔵がさまざまな策略を凝らして、怪異を演出しこじれた縁を次のフェーズへ動かします。

いつも通りの素晴らしい出来でどんどん読み進めていたら…ああ、最後の短篇であの人がお出ましになった!これは嬉しい。シリーズを読み続けている人へのご褒美ですね。堪能しました。ということでオススメ。
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『からくりがたり』

西澤保彦さんの『からくりがたり』を読む。

登場人物がゆるやかにつながりながら、奇妙に不気味な現象が起こっていく連作短編集。「計測器」という奇怪な人物がどの短篇にも登場しますが、その登場のさせ方も唐突だし、狂言回しというほど前面にでるわけでもないし、設定自体も非常に不気味な感じがします。

この小説の胆は、タイトルにもなっている「からくり」のありか、でしょう。あなたは見抜けますか?
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『日本人の知らない日本語2』

蛇蔵さん海野凪子さんの『日本人の知らない日本語2』を読む。

大ベストセラーの続編。今日も日本語学校の学生さんたちは面白いエピソードを提供してくれます。そしてこの本が素晴らしと思うのは、「外国人が教えてくれる日本語の不思議」のみの記述に堕していないところ。そういう内向きな本ではないんです。異なる文化が接触するとはどういうことか、言語を教えるとはどういうことか、に関する海野さんの省察がちゃんと含まれているから、外国人をだしにした「日本人論」になっていない。これがこの本の読み心地をよくしていると思う。

読んで、笑って、考えてください。オススメ。
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『綺想宮殺人事件』

芦辺拓さんの『綺想宮殺人事件』を読む。

本格ミステリ、という言葉の持つあのおどろおどろしくてかつわくわくするような雰囲気、今の本格ミステリからは失われてしまいましたよね。芦辺さんのこの作品は、あの雰囲気を十分に楽しめる、けれんみたっぷりのミステリになっています。最終的な事件の構図は、眩暈がするほど本格ミステリ的で、おぞましくも美しい。ひさびさだなあ、この読後感。

また、この本は「ゲーデル問題」に対する芦辺さんなりの解答になっています。僕は個人的にはこの解答は全くピントを外していると思うのですが、みなさんはどう思いますか?
posted by △ at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | もじにいりびたる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする